タバコの歴史(後編)

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前回の続きでタバコの歴史について。今回はタバコという新大陸発見以降の新商品のおかげで、どれだけヨーロッパ各国の王室が金儲けを成功したか、また、その当時の重商主義政策が成功してしまったせいで、現在の甚だ強大すぎる国家権力の仕組みが出来上がってしまった流れなどについても書きます。そして、後半はタバコそのものについて紹介。

スペインの重商主義とタバコ

スペインがヨーロッパで世界で最も強かった時代、新大陸から新しい道具を持ち帰って世界により広く拡めたのも、やはりスペインが最初だった。

大航海時代の覇者たるスペインが、アメリカ大陸という莫大な資産をいの一番に開拓できたことは、その後の近代国家の醸成を決定づける出来事となる。何故ならば、ヨーロッパの国々は新大陸アメリカからの貿易で国家経済を大規模改造出来たのだから。

とはいっても、西洋人はまったくすぐに新大陸から富を創出できたわけではない。アメリカ大陸に莫大な天然資源があるのは既知のとおりだが、この時代においてはとりわけタバコの栽培と欧州への輸出が、アメリカ大陸から得られる強力な資産だったのである。

スペイン人は黒人奴隷を使用し、南米でタバコの大規模栽培を開始する。タバコは当時主にハイチやメキシコから輸出され、特にベネズエラ産のヴァリナスタバコが品質が高いと、ヨーロッパでは大いに好評を得た。南米の公用語にスペイン語が多いのはこうしたわけで、スペインの入植が歴史的な背景にあったわけだ。

同様にブラジルの公用語がポルトガル語なのも旧ポルトガル領だったことに帰した事実だが、ブラジルでも大掛かりなタバコ農場が次々と展開されていく。その頃最もヨーロッパで売れた米国産商品は、まさにタバコだったと言い切ってもよいのである。

西洋の商人は安い人件費と広大で安い土地でレバレッジをかけて、この大航海時代に多くの富を築き、西洋という国も交易によってますます物質的に豊かになった。

人間が豊かになれる条件というのは、常に他の弱い人間たちを利用することによって成り立つ。ジェフ・ベゾスが天文学的レベルの金持ちなのは、メキシコ移民を時給900円で働かせているからであるし、日本有数の大金持ち孫正義という存在も、千葉や埼玉の外れにあるソフトバンクの大倉庫に最低賃金で働かせる多数の日雇い労働者によって成り立つのだ。

さて、こうしたタバコの貿易収入だが、国の特権階級であったスペイン王室は商人たちがますます力の大きな大商人になることよりも、自分たちがますます力の大きな貴族たりうるように、権力の商売を頑張った。

すなわち、彼らは他のビジネスマンが黒人を使ってどんどんタバコを栽培して、欧州各国に売って稼ぐのを許そうとせず、国の許可を得た業者のみがタバコビジネスをしていい風に仕組みを作ったのだ。タバコ商人は王室にくそったれロイヤリティを支払って自分の商売をしなくてはならなかった。

王族はリベートを待つだけで金がどんどん入ってきた。それは彼らをより強くし、のちの絶対王政、のちの近代国家の醸成につながることになる。ビジネスを支配する者は金を支配し強くなるが、ビジネスマンを支配するものは、全てを支配できるのだ。税や法律は国家において特別な立場の存在を創り出すための仕組みだったのだ。

ところで、スペインの王室はタバコリベートによる安定収入を確保するために、植民地人が勝手な輸出をしないように見張ったが、広大な土地を監視するには欧州の一国の人間数はあまりにも頼りなさすぎた。

一時は彼らの領地の小作にタバコ栽培の禁止のお達しを出すも、密輸を防ぐのに十分な効果を出さなかったため、スペイン政府は一度スペインのセビリアに南米の領地からのタバコを輸入してから、セビリア発でヨーロッパ各地に嗜好品を輸出した。

同様にスペイン本土においても、王室の国家収入確保のためにタバコ栽培は禁止されていた。が、このやり方は18世紀ごろには無理が来たらしく、結局、専売権賃貸会社なるものにタバコの輸入、製造、輸出、販売の管理が委託される。言うまでもなく、こうした管理会社も立派な特権であるので取り合いになる。この地位は競売によってスペイン銀行が勝ち取った。

ところで原料の栽培自体はこうしてアメリカ大陸の広大で心地の良い場所で行われたが、タバコ製品の製造に関してはスペインで工場が稼働した。王室はタバコの専売権を特定業者に与えてマージンを得、セビリアには極上のスナッフ工場が建設された。また、サラゴサでは町の議会が環境破壊を訴え、タバコ工場設立の反対を迫った。

イギリスのタバコ重商主義政策と米国の成り立ち

イギリス人がまだ自分たちでタバコを栽培する方法を知らなかった時代では、彼らは内なるヴァイキングの血を呼び起こし、航海中のスペイン商船を拿捕し商品を掠め取った。英国の密輸タバコ文化は、自国で栽培する能力が身についてからも続いたのだが、どこの国の王族も同じようにタバコ商人からあがりを掠めようとしたし、ビジネスマンもそれから逃れようと努力したのだ。

イギリスが新大陸でうまい、商品になりうるタバコの開発に成功すると、ヴァージニアを初めとしてメリーランド、カロライナからタバコ船が大西洋を頻繁に往復するようになる。それまで植民地の英国人ですら「南の先進国」からタバコを譲ってもらっていたことを考えると、これは大した進歩である。

そして、当初ただだだっ広いだけしか能がなかった植民地にアメリカという付加価値を与えたのも、まさしくタバコだった。この後に綿花などのプランテーションも続々も開拓されるが、米国開拓の第一歩商品はタバコである。タバコがアメリカ帝国建設のはじめの一歩なのだ。

また、植民地というゼロスタート地点においてまだ貨幣制度の準備が出来ていなかった段階においては、しばしばタバコが貨幣の代わりとなった。

各国のタバコ重商主義と国家近代化の成り立ち

各国により違いはあれど、多くの王政国家が重商政策に則って国庫を肥やす策を見出した。タバコという人気商品を独占するための工夫にはありとあらゆる趣向が凝らされ、密造品の取り締まる方法や、違反者に加える罰則を考えるのに特権貴族はサディスティックで執拗な才能を発揮した。

国の許可を得ないで売るタバコは禁止され、国産マークのないタバコが見つかると売り主は厳しい刑罰を受ける羽目になった。

タバコ嫌いのポージングをしていたドイツやロシアの皇帝たちも、タバコ財源という特上の蜜を発見すると、各国の絶対王政者にならんとして彼らのやり方を真似た。

が、国によってタバコの付き合い方や物語に個性のちがいが出てくる。ドイツ(プロイセン)の場合では貴族会でタバコクラブなるものを創設し、タバコの吸い方の流儀なども論じあいながら、気分良くビールを飲み交わした。

ロシアは古い時代では正教会の力が強かった。大のタバコ好きであるピョートル大帝がイギリスとタバコ貿易の契約を結ぶと、彼が国外へ用向きにある折を狙って教団は大修道院長から指揮を得て、近衛兵を動かし反乱を起こした。むろん、ロシアの支配者はこれを剛力で鎮圧する事になる。

オランダは珍しいケースで、自国栽培が禁止でなかった。そのため、タバコの加工産業でとりわけ自由な発展が見られたのもオランダで、品質の良いロールタバコが評判となった。やはり、賃金が低くてもそれなりのお金をもらいながら誇りを持ってモノを作る姿勢が大事なのである。

それに遠い海の彼方から品物を運んで来なくてもよかったので、輸送費や安全面でも強みとなっていただろう。この時代はまだ西洋人は蛮族であり(今でも本質としてそうだが)海賊行為は日常茶飯事だったのだ。

ただ、概してヨーロッパ各国はスペイン王室を代表するようなタバコ徴税請負人という存在を配置した。彼らは自由で開かれた商売を展開するビジネスマンたちの航海を妨害し、金を巻き上げる陸の海賊だった。

この国家というヤクザの親分がけしかける犯罪者は、その後タバコという分野にとどまることは知らず、塩、酒類、関税および市場使用料などと、加速度的にカツアゲ領域を拡げていくことになる。そうして得られた国家の収入が特権階級をさらに肥大化させ、いたいけな市民が抵抗する気持ちを萎えさせるまでに強力となる。

現代の法治・民主主義国家というのも、こうした中世から近世にかけてつくられた権力暴力を基礎としているが、歴史を学ばない多く人たちは未だに現代社会のおかしさに気づけないままである。よくよく考えてみると高すぎるタバコ税や酒税などは、中世時代の野蛮な執り行いを継承するものに他ならないのだ。

中世における色々なタバコ

まずは、私たちの間で最も一般的なシガレットタバコの原型について紹介しよう。前編の方でも触れたアカジェトルというタバコチューブがシガレット、すなわち紙巻たばこのオリジンだと言っていいだろう。

これは葦を適当な長さに切って表皮を削ぎ、その上からペースト状の木炭を塗って乾かし、中身には粉々にした煙草の葉や香料を詰め込んだ構造となっている。DIYに凝っている人がいたら、インディアンの技術にならって自分で自作タバコを作ってみるのもいいかもしれない。自分だけで楽しむ分には法に反しない(タバコの製造と販売を法で拘束するのは国家の横暴に他ならないわけだが)。

ユカタン地方で作られるタバコの製造方法もアカジェトルと大体似ており、こちらの方では棒にチューインガムノキの葉を巻いて植物の繊維で縛る。その上からタバコの粉末と糊と蜂蜜をコーティングし、最期に棒を引き抜いて中空部にタバコの粉を詰めるのだ。

噛みタバコをやった事がある人はきっと少ないだろう。このへんは前回紹介したスナッフと同じで普通のタバコ屋には置いていないようなマイナーなタバコ商品だからだ。

元祖のチューイング(噛みタバコ)も勿論のこと米国先住民から求められる。彼らは乾いたひょうたん2つを肩にいつでもぶら下げており、その中にはぎっしりとハーブと石灰が詰められている。

喫煙者は短い棒を口の中に入れて水分を含ませては、各ひょうたんに先端の濡れた棒をつっこみハーブと石灰をくっつける。そしてその組み合わせがついた棒を口の中に戻してハーブと石灰のコンビネーションをもぐもぐするのである。

正直、不衛生感が否めないやり方におもえるのだが、石灰で清潔を補っているつもりなのかも知れない。むろん、今はこんなやり方をしないので安心してよい。

タバコの王道と考えられているパイプスモーキングに関しても、アメリカ先住民は素晴らしい工芸品の数々を生み出している。脚付きのパイプもあるし、文様を彫ったものや、鷹や熊の形に彫り込んだパイプまで存在する。

メアシャムパイプ
オーストラリアのメアシャムパイプ。吸うのが大変そうだ。

中世ヨーロッパのタバコ

中世ヨーロッパ人はどんな風にタバコを楽しんでいたのだろうか。現代であれば、店や自販機にあるのから購入してプラスチック包装からチンケなシガレットを一本一本取り出して吸うのが今流だ。

中世においても嗜好品を口にくわえたり、鼻に押し当てたりする動作は変わらない。ちがうのは喫煙できるまでの手間である。大昔の彼らはタバコを売る店の暖簾をくぐると、そこにロール状に巻かれた長尺のタバコがいくつも置いてあるのを目にする。ちょうど鉄工所の鋸盤の隣に置かれている、アルミやステンレスの丸棒のようなイメージだ。

これらロールタバコは一巻で45kg程度の円筒状に巻き取られ、販売店ではこれを数十cmほどの適当な長さに切ってお客に渡した。値段は長さで切り売りではなく、重さで決められた。客側はきっと信用のある秤を求めただろう。

客はこの数十cmのロールを持ち帰り、木皿を用意し、ナイフで必要な量だけ刻んで煙のリラクゼーションをたのしんだ。削る道具も開発され、おろし金のような物でタバコを削った。キャロットというタバコを棒状にして紐で縛ったものを、大根とか鰹節でも下ろすみたいにして、出来た削り葉を喫煙の材料にするのだ。

タバコは当初居酒屋などで売られていたが、建前上は薬草なので主としては薬局で売られた。昔のタバコの楽しみ方は上に書いたようにロールを買ってきてナイフで刻んで木皿に盛り、クレーパイプなどに詰めつめして吸うのがやり方であったが、後においては刻むのも薬局の薬剤師の仕事になった。

現代の葉タバコはプラスチック包装か円い缶に葉っぱを収めている。。タバコ専門店などに売っているので興味のある人はどうぞ。パイプ用の葉タバコと手巻きタバコ用の葉タバコがあるので、間違えないようにしましょう。パイプ用の葉タバコは固いので、巻紙で巻いてもうまく吸えません。

先述のスナッフづくりも薬剤師の仕事で、乳鉢を使ってタバコの葉や香料を混ぜまぜして作った。中世のDIY精神についてはたびたび書いてきたが、こうしていろいろな薬草を混ぜて自分なりの煙を作るたしなみは、中世人の間では流行した。私もたまに数種の刻みたばこを混ぜて煙の味をフレーバーする楽しみを持っている。愛煙家の人は真似してされたし。

世界に広がるタバコの輪

さて、中世においては金持ちであるほど世界をまたぐ事ができるのを言ったことがあると思うが、たしかに当時の超経済国家であるイギリスやヴェネツィアは、多くを旅し、彼らの商品を異教徒たちに紹介した。タバコという新商品は携帯電話のようにすべての国で人気を勝ち取ると、商人たちはしたたかな勘を働かせたのだろう。

ただ、西洋人ばかりが常に新しいガジェットを開発してきたというのは、まったくの思い上がりであり、彼らは旅先のアラビア地方でまた新式のタバコと出会うことになる。

水タバコはキリスト教徒がムスリムに伝えるより先に持っていた習慣で、実際ペルシアの水タバコ(シーシャ)は、1622年刊のネアンダルの『タバコ学』の中にも紹介されている。中国にも水烟袋という名称で水タバコを吸う文化が拡まっていた。

シーシャ
水パイプ。アマゾンにも売っているし、シーシャでぐぐれば水パイプを吸うバーみたいなのはヒットするはずです。都会だけでなく田舎にもシーシャバーはあります。みんな買いますが、ぜんぜん違法ではないのであしからず。

なお中国人といえばアヘンを好むことで知られているが、アヘンの吸引する嗜好技術も西洋人の手柄である。吸引式の前のアヘンは丸薬で存在し、もしくは液状にして経口するものだった。

インドからジャワに大量のアヘンを輸出していたオランダ人が、水で薄めたアヘンをタバコに混合したものを最初に作り出し、ジャワの住民たちにこの魅力的な品物をプレゼントしたのである。東洋の小国のこの新しい文化は、まもなく東洋の大国である中国にも発見され、技術を共有する運びとなる。

ちなみに中国は現代ではそれほど喫煙大国ではない。消費量全体は人口が多いので世界トップだが、率でいえば世界ではちょうど中間あたりにいる。日本人はもちろんさらに吸っていない。

欧米諸国の中ではチリがかなり高く、セルビアやボスニアなどの中欧諸国も多く、ギリシャとフランスもかなり率として高めだ。チリやフランスのような白人の多そうなところが意外と高かったりする。そして、案外中東人が今喫煙者率少なめなのである。変な世界になったもんだ。

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